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サイト『七月の樹懶』の話と、更新履歴を主に。
300字SS『約束を破る』、『渡せなかった碧』
『約束を破る』

 あれは遠き幼い日。
 シロツメクサの花畑で、花の指輪をひとつ編んで、君の左薬指にそっと通した。
『おおきくなったら、おれのおよめさんになって!』
 小さな贈り物に、君は碧い目を真ん丸く見開いて、それから、至上の幸せに満ちた笑顔で、大きく頷き返してくれた。
『うん! なる! わたしあなたのおよめさんになる!』
 だいすき! と。
 君は俺に飛びついて、二人して白と緑の褥に倒れ込んで、高い笑い声を弾かせながら転げ回った。

 全部、全部ただの思い出だ。

 約束を破ったのは、俺だから。君を裏切って、君を悲しませたのは、俺だから。
 だから、どうかせめて。
 花が似合っていたその手に剣を持って、俺の血で、白を隠す程に紅く染めてくれ。



『渡せなかった碧』

 旅の空の下、鬱屈した表情ばかりの貴女を少しでも喜ばせたくて、装飾品店で指輪を買った。
 貴女の誕生石は、その瞳の色と同じアクアマリン。良く知っている。
 宿を取った夕食の席で、贈るタイミングを見計らっていた時、目に入ってきた、貴女の左薬指に鈍く輝く、銀の指輪。
 何の装飾も無い、純度も低い銀製のそれが、何を意味するか。わからない訳が無い。

 ああ、そうか。貴女はまだあの男を想っているのか。

 そっと指輪を収めた小箱をポケットに戻し、夕食後、再び装飾品店に走って、細いチェインを買った。それに指輪を通し、首からかけて、服の下に隠す。
 貴女が誰を想っていても。
 誰にも気づかれず貴女の色を抱くくらいは、許されたいと思った。


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第38回Twitter300字SS様参加作品。お題『贈り物』。

恒例になった、次回作予定『フォルティス・オディウム』超番外編でお送りします。
これがそれぞれ、最近インフォメペーパー等でチラチラお見せしている親世代のヒーロー、アルダとミサクの二人なのですが、
「何でお前ら揃いも揃ってそんなにエモいんだ」
と、書いた本人がツッコミを入れる事態になりました!
posted by たつみ | 21:20 | 小話 | - | - |
300字SS『一人酒』
「何が美味しいのかしら」
 大笑しながらエールをあおる仲間を見やり、貴女はどこかつまらなそうに、そうぼやいた。
「味より気分を楽しむんだ。酔って嫌な事を忘れる為に」
「私達を不快にさせる事も忘れるのね」
 他に聴こえない程度に嫌味を吐いて、溜息をこぼす貴女に、「じゃあ」と提案する。
「大人になったら、一緒に酌み交わそう。嫌な事も忘れる程に」
 すると貴女は、ぱちくり目をまたたいて、その後、軽く笑んだ。
「楽しみにしてるわ」

 それから季節が数度巡り。
 満月の下、テーブルの上には、葡萄酒を注いだ二つのグラス。向かいの椅子は空。

 グラスを軽く合わせて乾杯し、口に含んだ葡萄酒は、やたら苦みを帯びて、喉を滑り落ちていった。

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第37回Twitter300字SS様参加作品。お題『酒』。

今回も、次回作予定『フォルティス・オディウム』超番外編です。
もうこうなったら、事前に不穏を積めるだけ積んでいこうというスタイルに開き直りました。
積み上げた不穏の意味が判明するのは、恐らくリアル時間で一年以上後になると思います。
posted by たつみ | 21:02 | 小話 | - | - |
300字SS『貴方はいない』
 子供の頃。
 思い切り野原を駆け回った後、貴方と一緒に緑の褥に寝転んで、空を流れる雲を見上げた。
「あれは羊の群れ。のんびり、のんびり」
「空中を泳ぐ魚。あのまま海まで行くんだ」
「秋になると咲く花みたいだね。君の髪に飾りたい」
 貴方の突拍子も無いたとえに、私はくすくす笑いながらも、二人で過ごせる時間の幸せをかみしめていた。

 今、一人で見上げる空には、人の形に見える雲。
 貴方を思い出す雲。
 ねえ、貴方は今、どこにいるの? 貴方もこの空を見ているの? 私の事を、少しでも思い出してくれている?
 会いたいと、届かぬ願いを溜息として宙に吐き出しても、虚しく溶けるばかりで。
 会えぬ孤独に、ひとしずく、涙がこぼれた。

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第36回Twitter300字SS様参加作品。お題『雲』。

今回こそスピンオフじゃない話を書くぞー! と意気込んだのですが、何だかまた、次回作『フォルティス・オディウム』の宣伝に流れていってしまいました……。
でもまだ、これは誰と誰! とまでは言っていないので、これだけで完結としても読めるようにしました。
不穏を積むのが自分のスタイルだな……と自覚してきた昨今です。
posted by たつみ | 21:01 | 小話 | - | - |
300字SS『俺の上司は眠らない』
 俺は上司が休んでいる所を見た事が無い。
 俺より遙かに下の年齢で、この国の重要な役目に就いているその少年は、人前で休息する姿を見せないのだ。というか、そもそもろくに眠ってもいないようだ。
「そのうち病気で倒れますよ、多少でも休んでください」
 あまりに心配でそう告げたら、彼は青い瞳を困ったように細めて、「僕は眠れないんだ」と答えた。
「深く眠れば悪夢を見る。それに、自分に課された役目を果たすまで、のうのうと休む事は出来ない」
 そんな彼は、遠くにいる一人の少女の事を、いつも気にかけているらしい。
 彼女がいつか彼のもとに来たら、彼も心から安息を得る事が出来るだろうか。
 それとも、更なる悪夢が訪れるだけなのだろうか。


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第35回Twitter300字SS様参加作品。お題『休』。

次回作は軌道に乗ったら300字SS書きます? 誰でしょうねそんな事言ったのは。(私だ!!)
……という訳で、来年から始動予定の『フォルティス・オディウム(自分内通称FO)』の予備知識的超番外編です。
これだけだと、まだまだ何が何だかわかりませんが、今後公開されて、該当キャラが出てきた時に、「ああーこいつか……」と納得してくださったら幸いです。
そして主人公ではないこいつを一番手に持ってくるあたり、思い入れの偏りが、自分でもよくわかりますね!(顔文字「\(^o^)/」を使いたいです)
posted by たつみ | 21:14 | 小話 | - | - |
300字SS『今度は貴方の番』
 私はひとつの物語の主人公だった。
 人よりも劇的な半生を送り、多くの苦難を乗り越え、道を選んで戦った末に、愛しい人と生きる幸せを掴んだ。
 そして今、あの頃より歳を取った私の前には、息子が立っている。おろしたての騎士服に身を包み、真剣を帯び、私に似た顔を精一杯きりりと引き締めて。
 我が子が、危険の伴う役目に就くなんて、親としては、不安な事も沢山ある。
 でもこれも、この子が選び取った道。迷う事無く進んでいって欲しい。
 だから。
「頑張ってくださいね」
 その肩に両腕を回し、ぎゅっと力を込める。
 ここからは、息子が自分で紡ぐ物語。
 今、新たな物語の主人公の座を、私から、彼方の名を持つこの子に。


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第34回Twitter300字SS様参加作品。お題『渡す』。

『アルテアの魔女』超番外編です。
テキレボ6で最終巻を発行する為の編集作業の関係で、この作品に関する番外編を作成するのは、私の気が変わらない限り、これが最後になります。
お読みくださった皆様、感想をくださった皆様、ありがとうございました。
また、新しい作品が軌道に乗ったら、そちらの番外編を書いてみたいと思います。
posted by たつみ | 21:12 | 小話 | - | - |
300字SS『彼傘』
 水桶をひっくり返したかのような、突然の雨がやってきた。
 人々はそれぞれ、傘を広げたり鞄で頭を覆ったりして、家路を急ぐ。
 一時の雨宿り場所を求めて道を走っていると、ばさり、頭からかぶさる物が。色でわかる、黒い、彼の上着。
「傘にはならねえだろうが、それでしのげ」
 隣を走る彼が、赤い瞳をこちらに向ける。
「でも、そうするとあなたが」
「俺がこの程度で風邪引くか。お前に倒れられる方が迷惑だ」
 迷惑。その単語に、きゅっと心臓が痛みを覚えるけれど、彼なりに心配してくれているのだというのは、この半年で理解した。
 だから。
「……ありがとうございます」
 頬を染めてうつむきつつ返した言葉は、雨音で届かなかったかもしれないけれど。


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第33回Twitter300字SS様参加作品。お題『かさ』。

1回休み、をした後の『アルテアの魔女』超番外編です。
これで読み方は多分「ひがさ」です。(多分とは)
posted by たつみ | 21:12 | 小話 | - | - |
300字SS『神風吹かず』
『騎士として認められた以上は、祖国を守るための礎になる事も厭わない』
 叙勲式でそう胸を張っていた兄は、国境を守る戦で重傷を負い、熱にうかされた中、
『死にたくない』
 と三日三晩繰り返した末に、帰らぬ人となった。
『騎士になんてなりたくない。苦しい、痛い思いをして死ぬのは嫌だ』
 兄の無様な最期を見てそう繰り返していた俺は、明日、王都を守る戦いで、最後の砦の一員として敵を迎え討つ。
『貴君らは我が国の誇りだ。雄々しく戦い華々しく散る様は、後世まで語り継がれるであろう』
 国王はそう宣ったが、俺達は知っている。語り継ぐ者などいない。王都と共に全て燃え落ちる。
 それでも俺は行くしか無い。
 未来など無い、散るだけの戦いへ。

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第31回Twitter300字SS様参加作品。お題『散る』。

久しぶりに原作無しの一発ネタです。
「散る」といったらもう、これしか浮かびませんでした。
posted by たつみ | 21:44 | 小話 | - | - |
300字SS『いつか』
「えーれ。それ、えれといんしょん?」
 膝に乗った娘が舌ったらずに訊ねてきたので、
「そうですよ」
 はにかみながら、棚に飾ってある写真立てを手に取った。
 過去を現在に残す装置で刻んだ、思い出の日。あの人は白いタキシードを着て。私は純白のドレスを身にまとって、髪を結い上げ化粧を施し、赤いブーケを手にして。
 精一杯飾り立てた二人が、幸せそうに微笑んでいる。
「えれ、かわいー」
「ありがとう」
 あの人と同じ色の瞳をきらきら輝かせる娘に、微笑みかける。
 あなたもいつか大きくなって、こうして綺麗に着飾って微笑み合える相手と、巡り会えますように。
 あの人は、
『絶対に嫁になんかやらねえ』
 って、しかめっ面をするかもしれないけれど。

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第30回Twitter300字SS様参加作品。お題『飾る』。

完全に開き直って、『アルテアの魔女』番外編です。
時間軸的には本編後、同人誌版4巻の範囲となっております。
posted by たつみ | 21:07 | 小話 | - | - |
300字SS『君と霧氷を/三十年後の』
『君と霧氷を』

「霧氷、というものがあります」
 削り出した氷に甘いシロップをかけた、暑気払いの氷菓をしゃくしゃくと食いながら、隣であいつが懐かしそうに目を細めて思い出を語る。
 木々に霧の結晶が舞い降りて、枝を白く染める様は、あいつの故郷の北国でしか見られない、自然がもたらした奇跡なのだと。
「そうか、見てみたいな」
 ぼそりと呟けば、あいつの顔が少し朱に染まって、朗らかな笑みが浮かんだ。
「いつか一緒に見ましょう!」
 無邪気に告げるあいつには、「ああ」とは頷けない。
 いつか。一緒に。それは安易に出来ない約束。だから。
「気が向いたらな」
 そっけなく答え、あいつがどんな顔をしているか見ないように、氷をすくって一口含んだ。



『三十年後の』

 長い道程をかけてやってきた冬の空の下。白い結晶をその身に宿した木々に出迎えられた。
 近年稀に見る、最高の霧氷だという。
 子供達が手のかかる時期を終え、夫婦二人で呑気な旅も出来るようになった感慨深さを胸に、周囲を見渡していると。
「約束、叶いましたね」
 一回り小さな手がこちらの手に滑り込んできて、ぎゅっと握り締められる。
「いつか一緒に、って」
 振り向けば、白い息を吐きながら、あいつが笑っている。その目元口元には、あの日に無かった皺が寄っている。赤銀の髪にも、周囲と同じ色が混じっている。
 こんな小さな幸せすら得られる身ではないと、あの頃は思っていた。
 だが今は。
「……ああ」
 万感の思いを込めて、微笑む事が出来た。


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第29回Twitter300字SS様参加作品。お題『氷』。

もういい加減にしろって言われそうですが、『アルテアの魔女』番外編です。
まだ同人誌版になっていない時間軸の話にまで突っ込んでいますが、秋発行予定の最終巻プロモーション、というかんじでよろしくお願いいたします。
posted by たつみ | 21:01 | 小話 | - | - |
300字SS『あなたは知らない』
 野営の準備をしている最中、焚火の火種が見当たらなくて荷物を探っていると、
「私に任せてください」
 彼女は朗らかに笑って、首から提げた赤い石を唇に当て、滑らかに紡ぎ出した。
『闇を明るく照らす炎を』
 赤い蝶が舞い降り、焚き木に火がついて、明々と燃え上がる。
 彼女だけが使える、言の葉の力『アルテア』だ。
「お役に立てましたか?」
 彼女は少し気恥ずかしそうにはにかむ。だから、笑って返すのだ。
「ええ、充分です。ありがとうございます」

 ありがとう。あなたはいつも私の役に立ってくれる。
 十年前も、私の復讐の第一歩に、そのアルテアで、憎い憎い思い出を燃やし尽くしてくれた。
 あなたは知らない。
 私の胸にくすぶる、このどす黒い火を。

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第28回Twitter300字SS様参加作品。お題『火・炎』。

またも『アルテアの魔女』番外編です。
第一部のネタバレ核心に触れる話なのですが、最早隠す気がありませんでした。
posted by たつみ | 22:37 | 小話 | - | - |