Search this site
サイト『七月の樹懶』の話と、更新履歴を主に。
300字SS『メイヴィスキッチン:夜のおやつ編』
 夜遅くに小腹が空き、薄暗く明かりが灯る食堂兼台所に降りてゆくと、亜麻色の髪の少年が、こちらの気配に気づいて、ゆるりと振り返り、
「お腹減ったの?」
 と、まるでこちらの思考を見透かすかのように、小さく笑う。
「明日のおやつにしようと思ってたんだけど、少しならいいよ」
 差し出されたのは、ゼリーの上に切り分けた桃を載せた一品。
「ピーチメルバ、もどきかな」
 渡されたスプーンで、柔らかい桃を切り、ゼリーをすくって、口に含む。たちまち、桃の甘さと、ゼリーの爽やかさと、ベリーのジャムの酸味が口内に広がる。
「美味しい」
 素直に感想を述べれば、
「君にそう言ってもらえて良かった」
 ほのかに火を灯すような、淡い照れ笑いが返った。


――――――――――――――――――――

第49回Twitter300字SS様参加作品。お題『灯す』。

今週から始まった、『フォルティス・オディウム』子世代の超番外編です。
主役二人の関係性を盛り込もうとしたら、お題の入る余地が無くて、無理矢理突っ込む形になりました。
本来のピーチメルバはアイスクリームが入るようなのですが、夜中に仕込みをするおやつにアイスは使えないだろ……という事で、アイスを使わないレシピを必死に探しました。
結果→「アイス無かったら桃のコンポート使ったゼリーじゃん?」
posted by たつみ | 21:00 | 小話 | - | - |
300字SS『彼は彼方に』

 少しだけ、早起きをした朝。
 しっとりとした、白くけぶる屋外へ歩み出した時、思わず足を止めてしまった。
 霧の中でもわかる、紫の髪。同じ色の瞳が空を見上げ、ぼんやりと佇んでいる。
 その姿が今にもかき消えそうに思えて、慌てて名を呼べば、彼は弾かれたようにこちらを向き、柔らかく微笑んだ。
「どうしたんだ」
「貴方が、一人で消えそうだったから」
 胸に迫る不安を口にすれば、紫の眉尻が困ったように垂れる。
「俺はどこへも行かないよ。君を置き去りになんて、しない」
 彼の言葉の力に嘘は感じられなくて、「そうね」と曖昧に微笑み返す。
 
 その時はまだ、彼が本当に消えるなんて思ってもいなかった。
 白の霧ではなく、赤の炎の向こうへ、なんて。

 ――――――――――――――――――――
 
第48回Twitter300字SS様参加作品。お題『霧』。
またこうやって不穏を振り撒く!! とツッ込まれそうですが、
 
……………まだ子世代でこんなロマンス浮かばなかったんですよ……………。
 
という訳で、親世代主人公二人の、まだ何も知らなかった頃の、一幕でした。

 

posted by たつみ | 21:04 | 小話 | - | - |
300字SS『アルテアの魔女、黒の死神にチョコを贈る』

「イシャナでは、好きな相手にチョコレートを送る日だそうですね」

 そう言ってあいつが渡してきたのは、小箱に入ったトリュフチョコレート。少し不揃いなのは、こいつの手作りだからだろう。

 一粒つまんで、口に放り込む。たちまち、ほのかな苦味と、強すぎない甘味が口内に広がった。

「美味い」

 素直に感想を述べれば、表情がぱっと輝き、花の蕾がほころぶように笑みが広がる。

「おい、そんな顔するな。食っちまうぞ」

 その言葉の意味は理解しなかったらしく、若草色の瞳がきょとんとまたたいた。

 ……だから、そういう顔をするなと。

 

――――――――――――――――――――

 

第47回Twitter300字SS様参加作品。お題『食べる』。

思いっきり季節外れですが、もしかしたらアルテア世界のバレンタインは2月ではないかもしれないので、お題優先で突っ込みました。

物理本の最終巻を発行してから、今月で丁度一年ですが、足かけ5年みっちり付き合ってきただけあって、エレ達は今も描きやすいです。

posted by たつみ | 21:07 | 小話 | - | - |
300字SS『あなたの生まれたこの季節に』

「焼きました」

「何を?」

「ケーキを。でも」

 薄い唇を屈辱に歪ませて、彼女は、蚊の鳴くような声で告げた。

「失敗しました」

 恐らく、この季節らしく栗と芋を使ったのだろうパウンドケーキ……を目指したらしき物体は、元が何だったのかわからないくらいに真っ黒な塊となっている。

「ごめん。素直に母さんに作ってもらえば良かったわ」

 そう言ってしょんぼりする頭をぽんぽんと軽く叩き、黒い物体を手にして、かじりつく。正直、炭の味しかしないが、幼い彼女が自分の為に作ってくれた、それだけで愛しさが募る。

「練習だと思えばいいんだよ。次を楽しみにしてる」

 口の中をじゃりじゃり言わせつつ笑いかければ、彼女の表情が、ぱっと明るく輝いた。

 

――――――――――――――――――――

 

第46回Twitter300字SS様参加作品。お題『秋』。

『フォルティス・オディウム』番外編、主役二人が、まだ何も知らずに幸せだった頃の話です。

posted by たつみ | 21:00 | 小話 | - | - |
300字SS『帰る場所など』

「おかえり」

 子供の頃、遊んだ後に家路を辿ると、そう言ってくれた両親は、流行り病で逝きました。

「おかえりなさい、姉さん」

 たまの休暇で顔を見せると、そう出迎えてくれた妹は、行方知れずになりました。

 

 そして、今。

 旅路を共にしている勇者のあの人は、野営の夕方、わたしが夕飯の食材を得て戻ると、

「おかえりなさい」

 と、柔らかい笑顔を向けてくれます。

 

 彼女は知らない。

 わたしが、彼女にそんな事を言ってもらえる資格など無い事を。

 わたしが、この胸に秘める感情の刃を。

 何も知らないままの彼女に、「おかえり」と言って欲しいわたしと、彼女に全てを突き付けて、この信頼を塵に還したい衝動に駆られるわたしが、延々と戦っているのです。

 

―――――――――――――――――――

 

第45回Twitter300字SS様参加作品。お題『帰る』。

既にWebでも真相が公開されている範囲なので、そろそろ良いだろうと思い、主人公達以外の事も、描いてみました。 この話の主役と、「妹」については、本編終了後の番外編で、もう少しだけ、掘り下げたいと思っております。(なお番外編は白紙(プロット書き途中)です)

posted by たつみ | 21:16 | 小話 | - | - |
300字SS『宵空から降る』

『死した人は、母なる大地に身体が還り、父なる空にその魂を抱かれて、星となって子孫を見守り続けるの』

 いつか妻が話してくれた、西方のならわし。

 その話に則るならば、既にこの世を去った自分の両親も、身体は土に還り、無限の天空のどこかで、自分達を見守ってくれているのだろう。

 草の上に寝転がって、無数の星が瞬く宵空を見上げていた時、

「あ」

 傍らの孫が、無邪気に声をあげた。

「ながれぼしー」

『流星は、生まれ変わり』

 だから、流れ星の後には、再び地上に命が芽吹くという。

 そしてその通り。

「産まれたわよ」

 妻が微笑みながらゆっくりと歩いてきて、孫の赤銀髪をくしゃりと撫でた。

「これで貴女もおねえちゃんね、エレ」

 

――――――――――――――――――――――
 

第43回Twitter300字SS様参加作品。お題『空』。

 

「もう書かないだろうと思います」と言ったのを覆して、『アルテアの魔女』より、超番外編になります。

物理本5、6巻にあたる、続編を読まれていると、ニヤリとする仕様です。というか、そうでないと混乱を招く仕様になっております。すいません。

久しぶりの『フォルティス・オディウム』以外の番外編、楽しかったです。

posted by たつみ | 21:19 | 小話 | - | - |
300字SS『彼の望みは』

 春が来ると、白詰草が咲く草原で、王冠を編んだ。
 大好きな彼の紫の髪に、白と緑の冠を載せて、ごっこ遊び。
「王様、ご所望のものはありますか?」
 少し芝居がかった口調で、恭しく胸に手を当てて訊ねれば。
「君だよ」
 笑いを含んだ柔らかい声が耳朶を叩いて、腕が伸ばされる。
「ずっと一緒にいよう」
「お望みのままに」
 目一杯の笑みを返して身を委ねれば、温もりが包み込んでくれた。

 今、目の前に彼はいない。
「ご所望のものはありますか?」
 同じ問いを浮かばせて、じっと虚空を睨みつける。
「魔王様」

 今の彼が望むのは、世界か、あるいは、私の命か。
 あの頃の遊びではない問いを、いつか投げかける事になるのだろう。

――――――――――――――――――――――

第42回Twitter300字SS様参加作品。お題『遊ぶ』。

本日、物理本上巻がコミティアで初頒布となりました『フォルティス・オディウム』超番外編です。
去年あたりに、主人公視点で似たような話を一本書きましたが、あの話のネタバレをもっと突き詰めると、こういう事になります。
彼女達の運命については、物理本、あるいはこの先のWeb連載をよろしくお願いいたします。

posted by たつみ | 21:39 | 小話 | - | - |
300字SS『引き継ぎ』

 銃を、渡された。

「これが、隊長としてのお前の武器だ」

 王国最新式のリボルバー型。銀色の輝きは、ずしりと手に重い。

「さあ、新しい隊長に、最初の任務だ」

 僕を跡継ぎにする事しか頭に無くて、親らしい事を何ひとつしてくれなかった育ての親が、低い声で告げる。

「『先代を始末しろ』」

 しばらくの咀嚼の後、意味するところを理解して、驚きに目をみはれば、いつもどこか投げやりだった黒の瞳に、はっきりとした覚悟の光が宿っている。

「この腐れた国の、代々の儀式だ」

 その言葉にうなずき、真新しい銃口を真正面に立つ男の額に突き付ける。見上げる形になるのは、遂に彼に身長が追いつけなかった証拠だ。

「生きろよ」

 その笑顔に向けて、引鉄を、

 

――――――――――――――――――――――

 

第41回Twitter300字SS様参加作品。お題『新しい』。

 

最新作『フォルティス・オディウム』より、第2ヒーロー・ミサクの超番外編です。

この話については、かなり後でもう少し詳しく言及する機会があればいいなと思います。

まずは春ティアでの本編上巻を、よろしくお願いいたします。(とダイマ)

posted by たつみ | 21:02 | 小話 | - | - |
300字SS『可愛い僕のお人形』

 思いを言葉として吐き出す自動人形を買った。

「今日は良い天気です」

 北欧の少女のように白い肌。金色の髪と氷色のつぶらな瞳。高い鼻、ふっくらした赤い唇。

「彼女の為に、花を買いに行きたいです」

 瞬きひとつせず、にこりともせず、彼女は語る。

「素敵な女性です。もっと話したい」

「その声をずっと聞いていたい」

「手を握りたい」

「抱き締めたい」

 ある日から、人形の紡ぎ出す言葉は悪しきものになった。

「彼女の隣にいるあの男は誰だ」

「許せない」

「裏切りだ」

「いつか報復を」

 呪詛ばかりを垂れ流すこの人形は、壊れてしまった。破棄しなくては。

 レンチを振りかざして叩きつける直前、それは唇を歪めて嗤った。

「壊れたのは、貴方自身ですよ」

 

――――――――――――――――――――――

 

第40回Twitter300字SS様参加作品。お題『人形』。

 

久しぶりの、番外編ではない書き下ろしです。

が、とても不穏になりました。

posted by たつみ | 21:01 | 小話 | - | - |
300字SS『お約束』

 彼はやる事がいちいちしっかりしているが、失敗する事もあるのだろうか。

 彼でも、きまり悪そうに笑う事があるのだろうか。

 試してみたくて、悪戯を持ちかけた。

「ピザ、って十回言ってみて」

 彼は不思議そうに小首を傾げながら、「ピザ、ピザ、ピザ……」とはっきりと繰り返す。

 きっちり十回言いきった所で、「じゃあ、ここは?」と肘を指し示して笑う。

 彼は真顔で即答した。

「腕だろう?」

 ……試そうとした私が、馬鹿でした。

 深々と溜息をついて、がっくり肩を落とすと、彼は「解せぬ」という表情を浮かべて、また首をひねるのだった。


――――――――――――――――――――――


第39回Twitter300字SS様参加作品。お題『試す』。


本編公開を始めました、『フォルティス・オディウム』超番外編。

今まで色々と不穏を積み、本編もいきなり血生臭いので、少しだけふざけました。しかしこのオチはもう使い古されたものだと思うので、そこからの題名になります。

posted by たつみ | 21:08 | 小話 | - | - |