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サイト『七月の樹懶』の話と、更新履歴を主に。
300字SS『宵空から降る』

『死した人は、母なる大地に身体が還り、父なる空にその魂を抱かれて、星となって子孫を見守り続けるの』

 いつか妻が話してくれた、西方のならわし。

 その話に則るならば、既にこの世を去った自分の両親も、身体は土に還り、無限の天空のどこかで、自分達を見守ってくれているのだろう。

 草の上に寝転がって、無数の星が瞬く宵空を見上げていた時、

「あ」

 傍らの孫が、無邪気に声をあげた。

「ながれぼしー」

『流星は、生まれ変わり』

 だから、流れ星の後には、再び地上に命が芽吹くという。

 そしてその通り。

「産まれたわよ」

 妻が微笑みながらゆっくりと歩いてきて、孫の赤銀髪をくしゃりと撫でた。

「これで貴女もおねえちゃんね、エレ」

 

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第43回Twitter300字SS様参加作品。お題『空』。

 

「もう書かないだろうと思います」と言ったのを覆して、『アルテアの魔女』より、超番外編になります。

物理本5、6巻にあたる、続編を読まれていると、ニヤリとする仕様です。というか、そうでないと混乱を招く仕様になっております。すいません。

久しぶりの『フォルティス・オディウム』以外の番外編、楽しかったです。

posted by たつみ | 21:19 | 小話 | - | - |
300字SS『彼の望みは』

 春が来ると、白詰草が咲く草原で、王冠を編んだ。
 大好きな彼の紫の髪に、白と緑の冠を載せて、ごっこ遊び。
「王様、ご所望のものはありますか?」
 少し芝居がかった口調で、恭しく胸に手を当てて訊ねれば。
「君だよ」
 笑いを含んだ柔らかい声が耳朶を叩いて、腕が伸ばされる。
「ずっと一緒にいよう」
「お望みのままに」
 目一杯の笑みを返して身を委ねれば、温もりが包み込んでくれた。

 今、目の前に彼はいない。
「ご所望のものはありますか?」
 同じ問いを浮かばせて、じっと虚空を睨みつける。
「魔王様」

 今の彼が望むのは、世界か、あるいは、私の命か。
 あの頃の遊びではない問いを、いつか投げかける事になるのだろう。

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第42回Twitter300字SS様参加作品。お題『遊ぶ』。

本日、物理本上巻がコミティアで初頒布となりました『フォルティス・オディウム』超番外編です。
去年あたりに、主人公視点で似たような話を一本書きましたが、あの話のネタバレをもっと突き詰めると、こういう事になります。
彼女達の運命については、物理本、あるいはこの先のWeb連載をよろしくお願いいたします。

posted by たつみ | 21:39 | 小話 | - | - |
300字SS『引き継ぎ』

 銃を、渡された。

「これが、隊長としてのお前の武器だ」

 王国最新式のリボルバー型。銀色の輝きは、ずしりと手に重い。

「さあ、新しい隊長に、最初の任務だ」

 僕を跡継ぎにする事しか頭に無くて、親らしい事を何ひとつしてくれなかった育ての親が、低い声で告げる。

「『先代を始末しろ』」

 しばらくの咀嚼の後、意味するところを理解して、驚きに目をみはれば、いつもどこか投げやりだった黒の瞳に、はっきりとした覚悟の光が宿っている。

「この腐れた国の、代々の儀式だ」

 その言葉にうなずき、真新しい銃口を真正面に立つ男の額に突き付ける。見上げる形になるのは、遂に彼に身長が追いつけなかった証拠だ。

「生きろよ」

 その笑顔に向けて、引鉄を、

 

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第41回Twitter300字SS様参加作品。お題『新しい』。

 

最新作『フォルティス・オディウム』より、第2ヒーロー・ミサクの超番外編です。

この話については、かなり後でもう少し詳しく言及する機会があればいいなと思います。

まずは春ティアでの本編上巻を、よろしくお願いいたします。(とダイマ)

posted by たつみ | 21:02 | 小話 | - | - |
300字SS『可愛い僕のお人形』

 思いを言葉として吐き出す自動人形を買った。

「今日は良い天気です」

 北欧の少女のように白い肌。金色の髪と氷色のつぶらな瞳。高い鼻、ふっくらした赤い唇。

「彼女の為に、花を買いに行きたいです」

 瞬きひとつせず、にこりともせず、彼女は語る。

「素敵な女性です。もっと話したい」

「その声をずっと聞いていたい」

「手を握りたい」

「抱き締めたい」

 ある日から、人形の紡ぎ出す言葉は悪しきものになった。

「彼女の隣にいるあの男は誰だ」

「許せない」

「裏切りだ」

「いつか報復を」

 呪詛ばかりを垂れ流すこの人形は、壊れてしまった。破棄しなくては。

 レンチを振りかざして叩きつける直前、それは唇を歪めて嗤った。

「壊れたのは、貴方自身ですよ」

 

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第40回Twitter300字SS様参加作品。お題『人形』。

 

久しぶりの、番外編ではない書き下ろしです。

が、とても不穏になりました。

posted by たつみ | 21:01 | 小話 | - | - |
300字SS『お約束』

 彼はやる事がいちいちしっかりしているが、失敗する事もあるのだろうか。

 彼でも、きまり悪そうに笑う事があるのだろうか。

 試してみたくて、悪戯を持ちかけた。

「ピザ、って十回言ってみて」

 彼は不思議そうに小首を傾げながら、「ピザ、ピザ、ピザ……」とはっきりと繰り返す。

 きっちり十回言いきった所で、「じゃあ、ここは?」と肘を指し示して笑う。

 彼は真顔で即答した。

「腕だろう?」

 ……試そうとした私が、馬鹿でした。

 深々と溜息をついて、がっくり肩を落とすと、彼は「解せぬ」という表情を浮かべて、また首をひねるのだった。


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第39回Twitter300字SS様参加作品。お題『試す』。


本編公開を始めました、『フォルティス・オディウム』超番外編。

今まで色々と不穏を積み、本編もいきなり血生臭いので、少しだけふざけました。しかしこのオチはもう使い古されたものだと思うので、そこからの題名になります。

posted by たつみ | 21:08 | 小話 | - | - |
300字SS『約束を破る』、『渡せなかった碧』
『約束を破る』

 あれは遠き幼い日。
 シロツメクサの花畑で、花の指輪をひとつ編んで、君の左薬指にそっと通した。
『おおきくなったら、おれのおよめさんになって!』
 小さな贈り物に、君は碧い目を真ん丸く見開いて、それから、至上の幸せに満ちた笑顔で、大きく頷き返してくれた。
『うん! なる! わたしあなたのおよめさんになる!』
 だいすき! と。
 君は俺に飛びついて、二人して白と緑の褥に倒れ込んで、高い笑い声を弾かせながら転げ回った。

 全部、全部ただの思い出だ。

 約束を破ったのは、俺だから。君を裏切って、君を悲しませたのは、俺だから。
 だから、どうかせめて。
 花が似合っていたその手に剣を持って、俺の血で、白を隠す程に紅く染めてくれ。



『渡せなかった碧』

 旅の空の下、鬱屈した表情ばかりの貴女を少しでも喜ばせたくて、装飾品店で指輪を買った。
 貴女の誕生石は、その瞳の色と同じアクアマリン。良く知っている。
 宿を取った夕食の席で、贈るタイミングを見計らっていた時、目に入ってきた、貴女の左薬指に鈍く輝く、銀の指輪。
 何の装飾も無い、純度も低い銀製のそれが、何を意味するか。わからない訳が無い。

 ああ、そうか。貴女はまだあの男を想っているのか。

 そっと指輪を収めた小箱をポケットに戻し、夕食後、再び装飾品店に走って、細いチェインを買った。それに指輪を通し、首からかけて、服の下に隠す。
 貴女が誰を想っていても。
 誰にも気づかれず貴女の色を抱くくらいは、許されたいと思った。


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第38回Twitter300字SS様参加作品。お題『贈り物』。

恒例になった、次回作予定『フォルティス・オディウム』超番外編でお送りします。
これがそれぞれ、最近インフォメペーパー等でチラチラお見せしている親世代のヒーロー、アルダとミサクの二人なのですが、
「何でお前ら揃いも揃ってそんなにエモいんだ」
と、書いた本人がツッコミを入れる事態になりました!
posted by たつみ | 21:20 | 小話 | - | - |
300字SS『一人酒』
「何が美味しいのかしら」
 大笑しながらエールをあおる仲間を見やり、貴女はどこかつまらなそうに、そうぼやいた。
「味より気分を楽しむんだ。酔って嫌な事を忘れる為に」
「私達を不快にさせる事も忘れるのね」
 他に聴こえない程度に嫌味を吐いて、溜息をこぼす貴女に、「じゃあ」と提案する。
「大人になったら、一緒に酌み交わそう。嫌な事も忘れる程に」
 すると貴女は、ぱちくり目をまたたいて、その後、軽く笑んだ。
「楽しみにしてるわ」

 それから季節が数度巡り。
 満月の下、テーブルの上には、葡萄酒を注いだ二つのグラス。向かいの椅子は空。

 グラスを軽く合わせて乾杯し、口に含んだ葡萄酒は、やたら苦みを帯びて、喉を滑り落ちていった。

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第37回Twitter300字SS様参加作品。お題『酒』。

今回も、次回作予定『フォルティス・オディウム』超番外編です。
もうこうなったら、事前に不穏を積めるだけ積んでいこうというスタイルに開き直りました。
積み上げた不穏の意味が判明するのは、恐らくリアル時間で一年以上後になると思います。
posted by たつみ | 21:02 | 小話 | - | - |
300字SS『貴方はいない』
 子供の頃。
 思い切り野原を駆け回った後、貴方と一緒に緑の褥に寝転んで、空を流れる雲を見上げた。
「あれは羊の群れ。のんびり、のんびり」
「空中を泳ぐ魚。あのまま海まで行くんだ」
「秋になると咲く花みたいだね。君の髪に飾りたい」
 貴方の突拍子も無いたとえに、私はくすくす笑いながらも、二人で過ごせる時間の幸せをかみしめていた。

 今、一人で見上げる空には、人の形に見える雲。
 貴方を思い出す雲。
 ねえ、貴方は今、どこにいるの? 貴方もこの空を見ているの? 私の事を、少しでも思い出してくれている?
 会いたいと、届かぬ願いを溜息として宙に吐き出しても、虚しく溶けるばかりで。
 会えぬ孤独に、ひとしずく、涙がこぼれた。

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第36回Twitter300字SS様参加作品。お題『雲』。

今回こそスピンオフじゃない話を書くぞー! と意気込んだのですが、何だかまた、次回作『フォルティス・オディウム』の宣伝に流れていってしまいました……。
でもまだ、これは誰と誰! とまでは言っていないので、これだけで完結としても読めるようにしました。
不穏を積むのが自分のスタイルだな……と自覚してきた昨今です。
posted by たつみ | 21:01 | 小話 | - | - |
300字SS『俺の上司は眠らない』
 俺は上司が休んでいる所を見た事が無い。
 俺より遙かに下の年齢で、この国の重要な役目に就いているその少年は、人前で休息する姿を見せないのだ。というか、そもそもろくに眠ってもいないようだ。
「そのうち病気で倒れますよ、多少でも休んでください」
 あまりに心配でそう告げたら、彼は青い瞳を困ったように細めて、「僕は眠れないんだ」と答えた。
「深く眠れば悪夢を見る。それに、自分に課された役目を果たすまで、のうのうと休む事は出来ない」
 そんな彼は、遠くにいる一人の少女の事を、いつも気にかけているらしい。
 彼女がいつか彼のもとに来たら、彼も心から安息を得る事が出来るだろうか。
 それとも、更なる悪夢が訪れるだけなのだろうか。


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第35回Twitter300字SS様参加作品。お題『休』。

次回作は軌道に乗ったら300字SS書きます? 誰でしょうねそんな事言ったのは。(私だ!!)
……という訳で、来年から始動予定の『フォルティス・オディウム(自分内通称FO)』の予備知識的超番外編です。
これだけだと、まだまだ何が何だかわかりませんが、今後公開されて、該当キャラが出てきた時に、「ああーこいつか……」と納得してくださったら幸いです。
そして主人公ではないこいつを一番手に持ってくるあたり、思い入れの偏りが、自分でもよくわかりますね!(顔文字「\(^o^)/」を使いたいです)
posted by たつみ | 21:14 | 小話 | - | - |
300字SS『今度は貴方の番』
 私はひとつの物語の主人公だった。
 人よりも劇的な半生を送り、多くの苦難を乗り越え、道を選んで戦った末に、愛しい人と生きる幸せを掴んだ。
 そして今、あの頃より歳を取った私の前には、息子が立っている。おろしたての騎士服に身を包み、真剣を帯び、私に似た顔を精一杯きりりと引き締めて。
 我が子が、危険の伴う役目に就くなんて、親としては、不安な事も沢山ある。
 でもこれも、この子が選び取った道。迷う事無く進んでいって欲しい。
 だから。
「頑張ってくださいね」
 その肩に両腕を回し、ぎゅっと力を込める。
 ここからは、息子が自分で紡ぐ物語。
 今、新たな物語の主人公の座を、私から、彼方の名を持つこの子に。


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第34回Twitter300字SS様参加作品。お題『渡す』。

『アルテアの魔女』超番外編です。
テキレボ6で最終巻を発行する為の編集作業の関係で、この作品に関する番外編を作成するのは、私の気が変わらない限り、これが最後になります。
お読みくださった皆様、感想をくださった皆様、ありがとうございました。
また、新しい作品が軌道に乗ったら、そちらの番外編を書いてみたいと思います。
posted by たつみ | 21:12 | 小話 | - | - |