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サイト『七月の樹懶』の話と、更新履歴を主に。
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300字SS『あなたの生まれたこの季節に』

「焼きました」

「何を?」

「ケーキを。でも」

 薄い唇を屈辱に歪ませて、彼女は、蚊の鳴くような声で告げた。

「失敗しました」

 恐らく、この季節らしく栗と芋を使ったのだろうパウンドケーキ……を目指したらしき物体は、元が何だったのかわからないくらいに真っ黒な塊となっている。

「ごめん。素直に母さんに作ってもらえば良かったわ」

 そう言ってしょんぼりする頭をぽんぽんと軽く叩き、黒い物体を手にして、かじりつく。正直、炭の味しかしないが、幼い彼女が自分の為に作ってくれた、それだけで愛しさが募る。

「練習だと思えばいいんだよ。次を楽しみにしてる」

 口の中をじゃりじゃり言わせつつ笑いかければ、彼女の表情が、ぱっと明るく輝いた。

 

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第46回Twitter300字SS様参加作品。お題『秋』。

『フォルティス・オディウム』番外編、主役二人が、まだ何も知らずに幸せだった頃の話です。

posted by たつみ | 21:00 | 小話 | - | - |