300字SS『彼は彼方に』
2018.11.03 Saturday
少しだけ、早起きをした朝。
しっとりとした、白くけぶる屋外へ歩み出した時、思わず足を止めてしまった。
霧の中でもわかる、紫の髪。同じ色の瞳が空を見上げ、ぼんやりと佇んでいる。
その姿が今にもかき消えそうに思えて、慌てて名を呼べば、彼は弾かれたようにこちらを向き、柔らかく微笑んだ。
「どうしたんだ」
「貴方が、一人で消えそうだったから」
胸に迫る不安を口にすれば、紫の眉尻が困ったように垂れる。
「俺はどこへも行かないよ。君を置き去りになんて、しない」
彼の言葉の力に嘘は感じられなくて、「そうね」と曖昧に微笑み返す。
その時はまだ、彼が本当に消えるなんて思ってもいなかった。
白の霧ではなく、赤の炎の向こうへ、なんて。
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第48回Twitter300字SS様参加作品。お題『霧』。
またこうやって不穏を振り撒く!! とツッ込まれそうですが、
……………まだ子世代でこんなロマンス浮かばなかったんですよ……………。
という訳で、親世代主人公二人の、まだ何も知らなかった頃の、一幕でした。